vol1. カシミヤを選ぶ理由。
カシミヤは暖かい。けれど繊細で扱いが難しそう。そんなイメージがあったカシミヤ素材ですが、その一つ一つの理由を探ってみることにしました。まず暖かさの理由から。他の毛のものとは何が違うのでしょうか。
カシミヤはモンゴルや中国、イランなど夏と冬の寒暖差が激しい過酷な山岳地帯で生きているカシミヤ山羊から取れる天然の産毛のことです。冬はマイナス30℃という厳しい環境で生き延びるために、カシミヤ山羊の表面は粗野で太い獣毛が覆っていますが、その内側には細く長く柔らかい産毛があります。その産毛こそがカシミヤの暖かさの所以で、繊維が細ければ細いほど空気を抱え込み、そして体温を外に逃さないという断熱材の役割を果たしています。
そしてこのカシミヤ毛の「細さ」こそが、カシミヤをカシミヤたらしめる特徴。今回は、繊維の細さがもたらす暖かさと軽さ、そして手触りの良さについてご紹介。
細さ=カシミヤの暖かさ最大の特徴
髪の毛よりも細い、わずか14-16ミクロンのカシミヤ繊維が、驚くほどの保温性を生み出します。一般的なウールが25-30ミクロンほどの細さなので、カシミヤはより多くの微細な層を作り出し、空気を閉じ込めることができる構造だと分かります。さらに、カシミヤは熱伝導率が低いため、薄くても繊維の中に閉じ込めた暖かい空気を逃さないのです。
この繊細な構造が生み出す密度の高さも、カシミヤの強み。同じ重さでより多くの繊維と空気の層を含むため、軽さを保ちながら優れた断熱効果を持っていることは着ていて心地が良いと感じる点です。実際、カシミヤセーターを着ていると上半身だけ、分厚い毛布に包まれているように内側からぽかぽかしてきます。
最小限の"チクチク感"
カシミヤやウールなどの天然毛のセーターを着る上で気になるのは、その「チクチク具合」ではないでしょうか。人によって肌の敏感さは異なりますが、誰だってチクチクはしないほうが良いに決まっています。
さてその「チクチク具合」ですが、それも毛の繊維の細さに関係しています。人間の肌は30ミクロン以上の太さの繊維を感知すると「チクチクしている」と感じるそうで、加えて太い繊維ほど硬く、皮膚を刺激します。先述したようにカシミヤ繊維は14-16ミクロンと細く、そして柔軟で皮膚に触れても簡単に曲がります。さらにカシミヤは1年に1度、生え変わった毛を櫛で梳くようにして採取します。毛を切る訳ではないので断面がスパッとカットされた状態にならず、毛の先端は細いまま。それが糸になりセーターになった時に、肌への刺激を抑えてくれるのです。もちろん個人差はありますが、数字が示す繊維の細さに加え、実際に着用してみるとその柔らかさ、ふわふわ感に驚きます。
カシミヤの良さ、少しずつ分かってきました。次回は、その機能性についてもう少しお伝えします。暖かさと吸湿の関係や、カシミヤ独特の光沢はなぜ生まれるの?という点に着目します。